「身体の性別が受け入れられない」
「身体の性別に違和感を感じる」
「心と体の性が一致しない」
と感じる人がいます。

医学的な診断名ではこのような状態を
性別違和」あるいは「性同一性障害
と呼びます。

性別違和の治療は、
ホルモン治療や手術など
身体への治療がよく知られていますが
心の苦しみや対人関係に対する
心理カウンセリングもとても重要

であると、考えられています。

このコラムでは、
性別違和の詳細と、
そのカウンセリングについて

お伝えいたします。

性別違和の人口比・人数

自分の性別に違和感を感じると
「自分だけがおかしいのではないか?」
と思う人も少なくありませんが、
そのようなことはありません。

2013年の北海道文教大の調査によると
心と身体の性が一致せずに悩む人の人数は
日本全国で約4万6000人
比率にして約2800人に1人と言われています。

(参考:性同一性障害、全国の推計患者数「4万6千人」:日本経済新聞

性別違和の診断基準

アメリカ精神医学会が定めるDSM-5と呼ばれる診断基準では、性別違和は次のように定義されています。ただし、基準に当てはまるかどうか厳密に判断するよりも、今ある悩みや苦しみにどう対応するかを考えることが重要なことであると、私は考えています。診断基準はあくまでも参考程度にご覧ください。

A: その人が体験し、または表出するジェンダーと、指定されたジェンダーの間の著しい不一致が、少なくとも6ヵ月、以下のうち2つ以上によって示される。

  1. その人が体験し、または表出するジェンダーと、第一次および/または第二次性徴(または若年青年においては予測される第二次性徴)との間の著しい不一致。
  2. その人が体験し、または表出するジェンダーとの著しい不一致のために、第一次および/または性徴から解放されたい(または若年青年においては、予想される第二次性徴の発現をくい止めたい)という強い欲求。
  3. 反対のジェンダーの第一次および/または第二次性徴を強く望む。
  4. 反対のジェンダー(または指定されたジェンダーとは異なる別のジェンダー)になりたいという強い欲求。
  5. 反対のジェンダー(または指定されたジェンダーとは異なる別のジェンダー)として扱われたいという強い欲求。
  6. 反対のジェンダー(または指定されたジェンダーとは異なる別のジェンダー)に定型的な感情や反応を持っているという強い確信。

B: その状態は、臨床的に意味のある苦痛、または社会、職業、または他の重要な領域における機能の障害と関連している。

引用:DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル

性別違和の特徴と経過

心と身体の性別が一致しない場合、以下のような経過をたどることが多いと言われています。

小さな子どもの頃は、「おままごと」や「車あそび」など自分の感じている性に合った遊びの方が好きだったり、友達も自分の感じている性と同じ性別の友達とよく遊んだりすることが多いと言われています。「女の子らしく」「男の子らしく」と言われるとなぜそのように言われないといけないのか理解ができなかったり、大人になれば自分の感じている性になれると思っていたりすることも少なくありません。

思春期になり、身体が男らしく・女らしく成長し、感じている性と身体の性との違いが現実としてはっきりしてくると、そのことで悩んだり、苦しむようになります。

心と体の性の不一致は、人間関係や社会生活にも影響します。家族や友人に打ち明けるのか隠すのか、制服の有無やトイレなどの設備からどのような進路や職業を選ぶのか…など生活の全般の選択にも関係します。

性別違和のカウンセリングと治療

性の不一致の治療というと、ホルモン治療や性別適合手術など、身体に対する治療のイメージが思い浮かびやすいかもしれませんが、治療の入り口は「精神的サポート」が望ましいとされています。

「自分自身の性をどのように捉えるか」
「それを周りの人にどう伝えていくか」
「どのような生活を自分は望むのか」
「そのためにどのような方法をとるのか」
…などなど、

治療の前も、その最中も、あるいは身体的な治療が終わった後も、悩んだり考えたりすることはたくさんあります。

性同一性障害に関する診断と治療のガイドラインでは、身体的な治療に入る前に、以下の4つのテーマにおけるカウンセリングを、公認心理師や精神科医から受けることが望ましいとされています。

1.精神的サポート

精神的サポートとは、性別違和によってこれまで受けてきた精神的、社会的、身体的苦痛について、充分な時間をかけて共感的に話を聞いてもらうことです。

話を聞いてもらうことを通して、自分自身の思いや苦しんでいることが少しずつ整理されて、次のステップに建設的に進みやすくなります。

2.カムアウトの検討

「カムアウト」とは、自分の性別に違和感を持っていることを周囲に打ち明けることを言います。周囲に打ち明けるべきかどうかも含め、自らをどのように周囲に伝えて生活をしていきたいか、カウンセラーと一緒に検討を行います。

家族や友人、学校や職場など、いろいろなパターンを具体的に想定して、考えていきます。

検討が進み必要な場合は、家族合同の面接を行ったり、学校や職場の方とカウンセラーが連携をとる場合もあります。

いずれにしても、自分自身がどう感じ、どのようにしたいのか、ということも最も大切にして、検討を進めていきます。

3.実生活の検討

これから先、自分の性をどのように名乗り、どのような生活をおくることが自分にとって望ましいか、カウンセラーと一緒に検討をします。

自分の希望する生活が今どのくらい実現できているのか、さらに実現するために今できることはあるかなど、具体的に検討をします。

ホルモン治療や手術など、身体の治療を希望している場合は、そのような治療を行った後には、どのような生活の変化があるか、その変化に自分はどう対応するかについても検討をします。無理のない範囲で実際にそのような生活をしてみることで、自分の予想通りかどうかを確認していきます。

4.精神的安定の確認

上記の様々なことについて、精神的に安定をして対応できることを、カウンセラーと一緒に確認をします。

もし、うつ病など精神的に不安定になるような問題が他にもある場合は、まずはそちらの治療やカウンセリングを行います。

性別違和のカウンセリングや身体的治療は、かなりの精神的負担を伴うものですので、それに対応できるほど気持ちが安定しているかどうかを常にカウンセラーと確認しながら進めていきます。

1人で悩まず専門的なサポートを

いままで抱えてきたことを、知らない人に相談することはかなり勇気のいることですが、公認心理師や精神科医などの多くの専門家がサポートをしてくれます。

1人で悩まずに専門家に相談をすることをお勧めいたします。

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